食品ロスは世界的な問題となっており、日本も例外ではありません。
規格外野菜の廃棄もその一つで、見た目が悪いからという理由で、おいしく食べられる野菜が生産地やレストラン、家庭などフードチェーン全体を通して、大量に破棄されています。
そのような食材のロスを減らすため、食料品店などでは革新的な取り組みが求められ、家庭では敬遠されがちな規格外野菜を上手に活用することが必要となっているのです。
日本における食品ロスと廃棄物
日本をはじめとする多くの先進国では、毎年大量の食料が消費されずに廃棄されています。
日本の年間食品ロス量は約612万トンで、これは、世界中の飢餓に苦しむ人々への食料援助量よりも多いのです。
この廃棄量には、農家が出荷前に廃棄する規格外野菜は含まれていません。
しかし、市場に出荷できない規格外野菜の発生率も決して低くなく、生産量の2割程度というデータもあります。
農林水産省の調査によると、2018年の41品目の野菜の収穫量は約1340万トンでしたが、実際の出荷量は1150万トンでした。
このようなロスは、食品を無駄にするだけでなく、その処理に多大な費用を費やす原因となっているのです。
さらに、これらの廃棄は、焼却による大気汚染、埋立による土壌汚染、海洋投棄による水質汚染など、環境に悪影響を及ぼします。
これらの問題は、主に食料が過剰に供給されていることが主な理由であり、市場メカニズムによって削減できるはず。
しかし、そのためには、市場が正しく機能する必要があります。つまり、食品のロスや廃棄は、市場の機能不全の結果と考えることができ、経済用語では“市場の失敗”と呼ばれています。
食品ロスや廃棄物は、食料安全保障や食の安全と密接に関係しています。
食料安全保障は、人々が健康な生活を維持するために十分な食料を確保することを目的とし、食の安全は、食料のロスと廃棄物についてデータを調査し、主に食品の品質(鮮度)を適切に管理することが目的です。
日本では、食料安全保障と食の安全が大きな課題となっています。
日本では毎年、大量の食料(輸入食料を含む)が廃棄されていますが、このような食料管理には、いくつかの原因があります。
食品(特に生鮮食品)は工業製品と異なり、賞味期限が短く、売れ残った食品は廃棄されるのが一般的です。
小売食料品店では、顧客を獲得するために品切れを防がなければならないため、必要以上の食品を仕入れることも廃棄の原因のひとつとなっているのです。
日本における取り組み
日本では、2000年にリサイクル基本法が制定されました。
その目的は、天然資源の保全と食品廃棄物を含む使用済み資源のリサイクルによる環境改善です。
食品廃棄物の再資源化及び再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)は、食品を100トン以上排出する食品関連事業者を対象としています。
その最終目標は、2006年から毎年20%の食品廃棄物の削減です。
この食品リサイクル法の2007年の改正により、前年度に100トン以上の食品廃棄物を排出した食品関連事業者は、食品廃棄物の量とリサイクルされた量を大臣に報告することが義務づけられています。
2015年には、食品関連事業者に対し、新たな食品リサイクル目標が設定されました。
具体的には、食品製造業者、食品卸売業者、食品小売業者、飲食店のリサイクル率をそれぞれ95%、70%、55%、50%に設定したのです。
また、日本だけでなく、世界的にも食品リサイクルは進められています。
さらに「食品ロス・廃棄物会計報告基準」(FLW基準)では、食品ロスや廃棄物をより適切に管理する企業や、基準に適合した在庫を作成する企業に利益を与え、食品ロスや廃棄物を削減することが目的です。
日本政府は、関連する法律を制定・改正することにより、食品ロスや廃棄物を軽減してきました。
特筆すべきは、食品廃棄物リサイクル法が、サプライヤー間の負の外部性を効果的に内部化したことでしょう。
2008年から2017年の間に日本で発生した食品廃棄物の量は、この10年間で徐々に減少しています(2013、2014、2015年を除く)。
特に2017年には、大幅な改善が見られました。
これは、食品メーカーが食品廃棄物の削減に積極的に取り組んだ結果であると考えられています。
一方、取扱量は少ないものの、食品卸売業者、食品小売業者、外食業者における食品廃棄物は大きく減少していません。
日本では、食品廃棄物の削減に取り組んではいるものの、目標値には達していません。
また、加工食品のリサイクルもほとんど進んでいないといっていいでしょう。
食品リサイクルをさらに向上させるためには、食品事業者や店舗の経営戦略を考慮した業界規制が必要です。
たとえば、食品廃棄に対して何らかの罰則を設ければ、店長は過剰在庫をやめるかもしれません。
また、加工食品を再利用するフードバンクもリサイクルの一助となるでしょう。
厳しい消費者基準とコロナ禍
戦後、流通の合理化・輸送の簡素化のために「規格」が多く制定されました。
野菜や果物の大きさはS・M・L、形や色などはA・B・Cなどに分けられています。
そのため、視覚的に標準化された農産物、つまり見た目の良い食材が好まれるようになったのです。
曲がっていたり傷があったりして、大きさ、色、形、品質などの規格に適合していない野菜は「規格外野菜」として、一般的には生産段階で破棄されます。
生産地には、おいしく食べられるにもかかわらず、商品として流通せず、廃棄されてしまうものが多いのです。
こうした「規格外」と呼ばれる作物の多くはすぐに廃棄され、年間数百万トンもの食品ロスが発生しています。
日本は食品の品質基準が高く、食品によって消費者の健康や体調が損なわれると、生産者や小売業者への罰則や社会的制裁につながるため、小売店では賞味期限が近い食品が相当量廃棄されているのが現状です。
このように、日本では消費可能な食品がさまざまな理由で廃棄されており、この非効率的な食品管理に対処する必要があります。
農家は、収穫して販売するのに十分な美しさを備えていない野菜や果物の多くを畑に放置せざるを得ません。
小売業者が薄利多売のため、食用野菜や果物を廃棄したり、レストランでも見栄えの悪い野菜が捨てられたりしています。
農業の持続可能性がかつてないほど重要視されている今、こうした食品廃棄物は多くの場面で発生しているのです。
一般的に、小売業者は不格好な野菜や果物を廃棄しないのであれば、売るためには、その欠点を積極的に売り込むか、値下げをするなどのアプローチをします。
小売業者は、これらの戦略が効果的であるか、長期的に商品を動かすのに十分な持続可能性があるか、疑問を呈しているのです。
また、近年の気候変動などの影響により、規格に合った見栄えの良い農作物を大量に生産することが難しくなってきています。
さらに、コロナ禍においては、都市部での外食事業の営業機会の減少により、地方に住む多くの生産者が納品先を失ってしまいました。
特に高齢者の多い地方では、農家が新たな販路を開拓することは非常に困難といえます。
消費者が抱える問題
世の中には、ゴツゴツしていたり、形が悪かったり、鮮やかな色合いではないジャガイモや、ニンジン、リンゴ、イチゴなど、新鮮で美味しく食べられるのに、規格外と判定される野菜や果物が溢れています。
このような農産物は、見た目の美しさに恵まれた“兄弟姉妹”や“いとこ”と同じ味なのに、なぜ消費者に買われない運命にあるのでしょうか。
消費者がこのような規格外野菜を避ける理由は意外なところにあります。
それは、見た目が悪い規格外野菜を買ったり食べたりすることにまだまだ抵抗が強い日本人が多いようです。
このような抵抗意識を変えて、貴重な資源を最大限に活かし、食品廃棄物や不足を減らすためには、消費者が規格外野菜に対してポジティブになれるよう食料品店などの工夫はもちろんのこと、消費者自身もそういった食材を正しく理解する必要があります。
規格外野菜や果物に対する消費者の認識が改善され、受け入れが大きくなればなるほど、農家の畑や店舗での食品廃棄物を減らすことができるでしょう。
また、より持続可能な農業と販売方法によって社会も恩恵を受け、結果的により多くの人々に恵みがもたらされるのです。
規格外野菜を活用しよう!
このような規格外野菜の廃棄を目の当たりにし、国内では画期的な取り組みもされていますが、消費者側の意識を変えていくことも大切です。
味に変わりはないのに「規格外」として廃棄されてしまう野菜や果物を活用する方法として、家庭でできることはないのでしょうか。
スムージーにしてみるのもひとつの方法でしょう。
規格外野菜を活用したいけれど、形や大きさから料理に見栄えがしないのが気になる方もいるでしょう。
そのような場合は、見た目への不安を完全に払拭しましょう。
たとえば、野菜や果物をスムージーにすれば、日本中の生産者が育てた規格外の野菜や果物が無駄にならずに済みます。
実際、規格外野菜や果物を使ったスムージーの宅配サービスも国内で展開されており、冷凍パッケージで届けることによって、消費者が安全で簡単にスムージーが飲めるよう工夫されています。
フルーツだけのものもあれば、ホウレンソウやアスパラガス、ピーマンなどの野菜がミックスされたものもあります。
これまで捨てられていた野菜が、このようにクリエイティブに活用されていることはポジティブな事例であり、家庭でも積極的に取り入れたいところです。
家庭での食材の使い切り方
環境省の推計によると、2009年度に家庭で発生した食品ロスは284万トンでした。
2020年7月に実施した「家庭の食品ロスに関する調査」によると「捨てられがちな食品・食材」を挙げると、圧倒的に多かったのが「野菜」でした。
野菜の中でも、キュウリや葉物野菜は、日が経ってしんなりしてくると食材として使いにくいため、捨てられることが多いようです。
しんなりした野菜でも使える最も簡単な方法としては、カレーの具材に使うことです。
キュウリやレタス、トマトなど、さまざまな食材を使ったカレーを作ることができます。
たとえば、ズッキーニの代わりにキュウリを使ったキーマカレーや、豆腐とキャベツのカレー、チキンとトマトのカレーなど、食品ロスになりがちな食材を使ってレシピの幅を広げましょう。
カレーは食材の幅が広いため、食べ頃を過ぎた野菜を活用するのに適した料理でもあります。
月に一度、冷蔵庫をリセットする日を設けて、残っている食材を確認してみてください。
そして、賞味期限の近い食材を使って、さまざまなカレーにチャレンジしてみましょう。
これは環境面だけでなく、食費低減の効果も大きいのです。
規格外野菜の利用は健康効果も期待できる
野菜や果物の副産物として、高い栄養価があることは広く知られています。
エンドウ、枝豆、インゲンなどの種皮や、レモン、オレンジ、グレープフルーツなどの皮にも食物繊維が多く含まれています。
トマトは、食物繊維とミネラルを多く含み、低カロリージャムなどを作るのにおすすめです。
このトマトジャムは、市販のアンズジャムに比べて食物繊維を多く摂ることができます。
トマトの搾りかすは、強い抗酸化活性のためのフェノール化合物とトコフェロールの豊富な供給源です。
野菜の皮は、強い抗酸化作用を示します。
たとえば、ジャガイモの皮は、製品の栄養特性や健康効果を向上させるために、クッキー、小麦パン、パン製品を作る際の機能性原料として使用されることがあります。
果実の皮や搾りかすには、強いラジカル消去活性を持つフェノール化合物が多く含まれています。
マンゴーの果皮は、高い抗酸化活性を持っており、機能性食品の開発において天然の抗酸化剤として使用するのに適しています。
さらに、ブドウの搾りかすは、パン、ヨーグルト、チーズ、マフィン、サラダドレッシング、クッキー、ブラウニーなど、多くの種類の食品開発において機能性成分として使用されているものです。
たとえば、ブドウの搾りかすをスムージーなどで食材として利用し、ブドウ果汁を体内により多く取り入れることで、特に抗酸化活性の面で製品の健康効果を高め、栄養価を向上させることができます。
リンゴの皮や搾りかすは、柑橘類の皮など他の果実副産物に比べて食物繊維が多く含まれています。
リンゴの果肉は、ポリフェノールの良い供給源であり、強い抗酸化活性を示します。
りんご果肉のポリフェノールは、ビタミンCやビタミンEよりも強いラジカル消去活性を示したことから、りんご果肉は抗酸化物質の天然供給源となる可能性があるのです。
ブドウなど、他の果肉は高タンパクで食物繊維を含み 、不飽和脂肪酸も豊富です。
規格外野菜をポジティブに活かそう
規格外もおいしい、いえ、規格外だからこそ、新しいおいしさを追求できるのかもしれません。
野菜や果物には色や形、大きさなど、さまざまな特徴があり、人間の個性と同じように、それぞれがおいしく栄養も豊富です。
規格外野菜と呼ばれているものを家庭で上手に取り入れて活用すれば日常生活はより充実して、食品ロスの削減にもつながり、社会や環境に貢献することができるでしょう。