規格外野菜の廃棄量が引き起こす問題と規格外野菜を活用する取り組み

トラクターなどで野菜が廃棄されているケースがあります。

なかには、廃棄される様子を見て疑問を感じた人もいるのではないでしょうか。

日本では、野菜を出荷する際に出荷基準を設けているため、基準を満たさない野菜は「規格外野菜」として捨てられてきました。

しかし、近年は環境問題の改善などの観点から規格外野菜を活用する取り組みが行われているのです。

今回は、規格外野菜の廃棄問題や活用事例について解説します。

規格外野菜とは

家庭菜園などで野菜を作ったことがある人は、売っているものと異なり野菜がさまざまな形になった経験があるのではないでしょうか。

例えば、キュウリであれば曲がり具合や長さが1本ずつ異なります。

一方、スーパーマーケットなどで販売されている野菜は、どれも大きさが同じくらいで傷などが見当たらないですよね。

お店で売られる野菜の形が整っているのは、もちろん農家が手をかけて育てているという理由もありますが、基準を満たさない少しでも形のいびつな野菜は出荷段階で弾かれてしまうことも多い傾向です。

このように、収穫したものの市場に出回らない野菜は「規格外野菜」と呼ばれています。

野菜の規格とは

規格外野菜を知るには、野菜の「規格」について理解しないといけません。

野菜の規格には、「産地ごとの出荷基準」と国が定めた方法で生産された食品に表示できる「JASマーク」の2つがあります。

ここでは、2つの規格を確認していきましょう。

産地ごとの出荷基準

出荷基準とは、野菜の品質を保つために産地(農協など)ごとに決められた基準です。

出荷基準を満たさない野菜は、出荷できません。

出荷基準には、野菜の大きさごとに決めた基準と見た目などの品質を表す基準の2つがあります。

野菜の大きさや重量を表す基準は、S・M・Lなどで野菜以外でも使っているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。

品質を表す基準には、A・B・Cがあり最も品質が良いのがA級品です。

このほか、野菜を出荷するためには、段ボール1箱あたりの大きさや段ボールに入る野菜の数、野菜1個(1本)あたりの大きさが細かく決められています。

そのため、この基準に適合しなければ出荷できません。

一般的に、産地ごとの出荷基準に満たない野菜のことを「規格外野菜」と呼んでいます。

JASマーク

国が定めた生産手段をとり、品質基準を満たしているものは、パッケージなどに「JASマーク」を付けて販売することができます。

もちろん、JASマークの取得をしなくても出荷はできますが、消費者にとっては購入する際の判断材料の一つになるのです。

JASマークには、「一般JASマーク」のほか、「有機JASマーク」や「生産情報公表JASマーク」などがあります。

野菜の出荷と大きく関係があるのは、「有機JASマーク」や「生産情報公表JASマーク」の2つです。

「有機JASマーク」は、農薬や肥料をできるだけ使わずに育てたものを保証しています。

ただし、「完全無農薬」という意味ではありません。

使用してはならない農薬や肥料があらかじめ決められていて、野菜の場合、2年以上禁止された資材を使っていない農地で栽培された野菜に付くことがあるマークです。

一方で、「生産情報公表JASマーク」は生産者の情報を公開している農産物に付くマーク。

生産者には、生産情報の記録・保管・公表が義務づけられています。

規格外野菜はどうなる?

規格外野菜の一部は、カット野菜や缶詰などの加工品を生産する際に使用されます。

ただし、ふぞろいな野菜は機械で調理しにくいため、一部の野菜しか使われていません。

そのほかの野菜は、農家が自家消費したり家畜などの飼料に使われたりします。

それでも残ってしまった規格外野菜は、廃棄されているのです。

農林水産省によると2020年の野菜の収穫量は、1,304万5,000トンで、そのうち出荷量は1,125万8,000トンとなりました。

単純に計算をすると、収穫した野菜の約13.7%にあたる178万7000トンもの野菜が出荷基準に満たなかったことが分かります。

これは、あくまで収穫量にカウントされている野菜で出荷できなかった量です。

野菜の中には、収穫量に数えられずに廃棄されているものも少なくありません。

収穫量にカウントされていない野菜を含めると、生産された野菜の30%ほどが廃棄されているという報告もあります。※

※政府統計の総合窓口に掲載のデータより
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00500215&tstat=000001013427&cycle=7&year=20200&month=0&tclass1=000001032286&tclass2=000001032933&tclass3=000001161149

野菜に出荷基準が設けられている理由

野菜に出荷基準が設けられている主な理由は、以下の2つです。

消費者に品質のよい野菜を届けるため

野菜は、工業製品のように全く同じものを生産することは困難です。

日本では、高度経済成長期に全国の野菜が流通するようになり、流通する野菜の品種が増加。

他の地域で生産された野菜と区別し、農家の競争を促進するためには、一定の基準を設ける必要があったのです。

野菜をはじめとする農産物の規格化は、1960年代に当時の農林省が推進。1973年には、野菜の全国標準規格が制定されました。

その後、野菜標準規格普及指導事業が行われるようになると、同じ産地の中でも競争を行うため、産地ごとにより細かい基準が作られるようになったのです。

野菜標準規格普及指導事業は、2001年に廃止されましたが2022年時点でも産地ごとに出荷基準が設定されています。

現代において、市場に流通する野菜の多くはスーパーマーケットなどの大型店舗を通して消費者のもとに届くのが一般的です。

スーパーマーケットで販売されている野菜は、見た目のきれいなものから選ばれる傾向があり、見た目の悪いものは売れ残りの原因となります。

このように、流通の段階で廃棄される野菜を減らすためにも出荷基準が必要とされているのです。

農家を保護するため

野菜に厳格な出荷基準を設けることは、供給過多による野菜価格の下落を防げます。

野菜がどんなに収穫できても、1個あたりにかかる物流コストは大きく変わりません。

豊作の年に野菜が大量に出回ると、販売価格に占める物流コストの割合が高くなり、農家の手元に残るお金は少なくなるでしょう。

出荷基準を設けて市場に流通する野菜の量を抑えることは、農家を保護することにもつながるのです。

なお、豊作の年には「需給調整」という出荷制限が農林水産省主導で行われています。

出荷基準を重視することの問題点

野菜の規格を厳格に定めることは、メリットばかりではありません。ここでは、出荷基準を重視しすぎるとどのような問題があるのかについて解説します。

おいしさを測る指標ではない

野菜の品質を表す規格は、野菜の見た目に着目したもので、おいしさと直接の関係がありません。

例えば、ある農協では、キュウリの出荷基準を以下のように設定しています。

  1. A級品:曲がりの程度が2cm以内で肩落ち・尻太り・尻細りが目立たないもの、なおかつ傷がないもの
  2. B級品:曲がりの程度が4cm以内で肩落ち・尻太り・尻細りが軽微であること

このように、出荷基準はあくまで外見の美しさや傷のなさに着目したものとなるため、おいしさを測る指標ではありません。

安全性の面で疑問が残る

見た目のよい野菜を作るために、肥料や農薬は必須です。特に、虫害から守る点で農薬は欠かせません。

無農薬で出荷基準に見合う野菜を育てるには、非常にコストがかかり利益を上げるのが難しくなります。

このように、見た目のよい野菜はほとんどが農薬や肥料の使用を前提としているため、「安全性」の面で異議を唱える声も少なくありません。

消費者が見た目にこだわらずに野菜を買うようになれば、「農薬を減らすこともできる」という生産者側の声もあります。

梱包コストがかかる

野菜の出荷基準には、単に野菜の見た目だけでなく「1箱に何個入れる」といった梱包方法も含まれています。

そのため、規格内野菜は必要以上に段ボールやビニール袋の梱包資材を使ったり箱詰めの際に労力が必要であったりする傾向です。

梱包資材のコストや、箱詰めにかかる人件費も野菜の販売価格を上げる原因となっています。

フードロスの問題が起こる

世界の9人に1人が食べるものにも困っているといわれています。

一方で、大量の食べ物が廃棄される「フードロス」の問題も深刻です。

世界では、年間約13億トンもの食料が捨てられているといわれており、日本でも2017時点での廃棄量が約612万トンとなりました。

廃棄量の30%ほどにあたる野菜が収穫されたにも関わらず出荷できていません。

廃棄される野菜は、フードロスの値では計上されないため、規格外野菜の廃棄量が多いことは「隠れフードロス」とも呼ばれています。

フードロスは、「貧困で満足に食事がとれない人もいるなかでよくない」と思われがちですが、問題はそれだけではありません。

例えば、野菜を廃棄する際に使うトラクターから出る排気ガスや焼却エネルギーは、温室効果ガスを増加させるため、地球温暖化につながります。

また、焼却スペースを新たに埋め立てる際に土壌汚染や水質汚だくといった別の環境問題が起こることも指摘されているのです。

2010年代以降、世界規模で異常気象が起きていて、結果として小麦やタマネギなど冷涼な気候を好む野菜の収穫量が減っています。

また、大規模な干ばつや洪水などがさまざまなところで起きていて、そのことも農作物の収穫量減少の一因となっているのです。

野菜の収穫量が減れば、これまで野菜の収穫量が豊富で輸出に回すことができていた国でも国内消費を優先的に確保することが求められます。

そのため、日本のように食料自給率が低い国では食品の価格が上昇するのです。

規格外野菜を廃棄することは、地球環境に影響を与えることにもつながります。

結果的に、めぐりめぐって日本人の生活にも大きな悪影響を及ぼすといえるのではないでしょうか。

災害にあったときに農家が大きな被害を受ける

野菜の出荷基準は、厳格に決められていて1cm以上の傷があるだけで規格外となってしまうケースもあります。

規格外野菜は、普通に野菜の栽培をしていても数%は出るものです。

しかし、自然災害が発生し被害にあうと商品になる予定だった野菜に傷が付いてしまい、収穫される予定であった多くの野菜の廃棄を余儀なくされるケースもあります。

過去には、大型台風が来たときに収穫を間近に控えた野菜が大量に傷つき出荷できなくなったこともありました。

自然災害が起これば、田畑やビニールハウス、農業用機材などの修繕にお金がかかるだけでなく、農家にとっては収入が途絶えることにもなりかねません。

自然災害にあった農家を補償する制度はありますが、農家の高齢化が進んでいるため、なかには自然災害をきっかけに農家をやめる人もいます。

農家にとって大きな痛手となるのは、自然災害だけではありません。

新型コロナウイルス感染症が流行した2020年には、飲食店や給食などで使われるはずの野菜が出荷できなくなった例もあります。

この際、農家の中には野菜を廃棄せざるを得なかったところもありました。

日本政府は、休業する飲食店などに対し補償を行いましたが、生産者や卸業者に対する補償は十分に行われず、生産者や卸業者からは不満の声が出ました。

なお、2020年の野菜の作付面積は2011年と比べると約5%減少していて、2019年と比べても約3%減っています。

2020年の収穫量は、1973年以降最も少なくなりました。

気候変動によって日本でも大規模な自然災害が増える一方、被害に対する補償が不十分なことも農家の減少と関係があるでしょう。

供給不足のときに価格高騰を引き起こす

災害や天候などの影響で野菜が規格通りに育たなかったときは、価格高騰となる場合があります。

2021年は、タマネギの生産地となる北海道の気温が高く雨が少なかったため、不作となりました。

また、新型コロナウイルス感染症の影響や世界情勢の影響でタマネギの輸入量が減った結果、2022年の春にはタマネギの価格が高騰。

災害のときには、傷が付いたため「規格外」となり野菜の廃棄量が増える一方で、市場に流通する野菜の量が減ってしまうため、野菜の価格が高騰してしまうという皮肉な現象も起きています。

出荷基準を設けることで需要過多に対応することは可能ですが、供給不足による価格高騰を抑えることはできません。

消費者が野菜に求めているもの

規格外野菜が市場に出回ることで、「野菜の需要よりも供給のほうが大きくなり野菜の値段が下がるのではないか」と懸念する声もあります。

しかし、本当に価格は上昇するのでしょうか。

そこで、ここでは消費者が野菜を買うときに求めていることについて解説します。

使いやすさ・料理のしやすさ

厚生労働省は、生活習慣病を予防するために成人が必要な野菜の摂取量を1日あたり350g以上と定めています。

しかし、厚生労働省の2019年度「国民健康・栄養調査」によると日本人の平均的な野菜摂取量は、1日あたり280.5gと目標値の約80%です。

年代別に見ると、20~40代までは平均的な野菜摂取量に100g近く届いていません。

特に、20代の男性の野菜摂取量は233g、女性は212.1gと野菜不足の深刻さがうかがえます。

若い世代ほど野菜が不足する背景には、「調理が面倒くさい」「買っても使い切れない」といったことが挙げられるでしょう。

さらに、新型コロナウイルス感染症が流行し、休校が相次いだ2020年には、子育て世帯を中心に野菜不足が深刻化しました。

子育て世帯で野菜不足が深刻化した背景には、子どもに食べてもらえる料理を作るようにした結果、

「野菜を上手に使わなくなった」
「簡単に作れる1品料理を出す機会が増えた」

といったこともあるようです。

また、単身者など家族が少ない人にとってスーパーで販売されている野菜は、価格が高かったり量が多くすべて使い切るのが難しかったりすることもあります。

こういった複合的な要因が野菜の摂取量不足や買っても食べきれずに捨ててしまうフードロスの問題を引き起こしているのです。

規格外野菜を使ったカット野菜や加工品が手軽に購入できれば、野菜の摂取量不足やフードロスの問題の改善が期待できるでしょう。

価格の安さ・信頼

野菜摂取量は、世帯収入と関係があることも分かっています。

2014年度の「国民健康・栄養調査」では、世帯年収が200万円未満、200万円以上600万円未満、600万円以上の3グループに分けて、各グループの1日あたりの野菜摂取量を以下のように算出しました。

  • 世帯年収200万円未満:264.4g
  • 世帯年収200万円以上600万円未満:286.6g
  • 世帯年収600万円以上:317.7g

この結果から、世帯年収が高いグループほど野菜をとっていることがうかがえます。

また、世帯年収の低いグループほど、食費に占める炭水化物の割合が増え、野菜や肉類の割合が減っている傾向です。

さらに、野菜は他の食品と比べて価格変動が激しい特徴があります。

そのため、世帯年収を問わずに価格が高くなると買い控えをする消費者もいるでしょう。

ちなみに、農林水産省が2006年に東京都と千葉県のスーパーマーケットで行った調査によると消費者のうち約79%が「これまでに規格外野菜を購入したことがある」と答えました。

一方で、「買ったことがなく今後も買うつもりはない」と答えた人は4%にとどまっています。

消費者は、おいしさや価格など別の魅力的なポイントがあれば、見た目のよい正規品でなくてもよいと考えていることがうかがえるでしょう。

また、約75%が「規格外野菜は安ければ買う」と回答しました。

「価格が安ければ買う」と答える割合は、対面販売を実施している青果店ほど少なくなることが分かっています。

このように、消費者にとっては見た目以上に価格、価格以上に信頼できるかどうかが大切となることが分かります。

「規格外野菜」を流通させるメリット

近年、出荷できない野菜を廃棄するのではなく「流通させて、食卓へ届けよう」という取り組みが行われるようになりました。

規格外野菜を廃棄せずに流通させると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

ここでは、6つのメリットについて解説します。

おいしい野菜を買える

近年は、見た目のよい野菜よりも、おいしい野菜を子どもたちに食べさせたいニーズが生まれています。

農薬や肥料をできるだけ使わずに育てた野菜は、農薬や肥料を使って栽培管理をした野菜よりも見た目が不格好です。

しかし、消費者のなかには不格好なほうが安全と考えている人も増えてきました。

規格外野菜は、地域内で販売されることが多く消費者のなかにはあえて規格外野菜を選んでいる人もいます。

地域で売られる規格外野菜は、収穫されてから店頭に並ぶまでの時間が短いため、その分新鮮でみずみずしいものが多い傾向です。

消費者が安く野菜を買えるようになる

規格外野菜が流通すれば、野菜の価格が相対的に下がるため、消費者は安く野菜が買えるようになります。

また、一時的に出荷基準に満たない野菜が増えた場合でも、規格外野菜を売ることで価格が暴騰することを防げるでしょう。

消費者は、常に良心的な価格で野菜を買うことができるようになるのです。

地産地消を促進しフードマイレージの削減につながる

市場に流通できない規格外野菜は、地域内で消費されていく傾向のため、地産地消を促進することができます。

地産地消を推進することで、物流にかかる時間や費用を削減できるため、環境負荷の軽減が期待できるのです。

物流コストを抑えられれば、農家の手元に残るお金を増やすこともできます。

また、地球規模で見ると野菜を運搬する際に発生する温室効果ガスを減らすことも期待できるため、地球温暖化対策にもつながるでしょう。

食品を運搬する際に生じる環境負荷を「フードマイレージ」と呼びます。

近年は、フードマイレージを削減するための取り組みが全国で行われるようになりました。

規格外野菜を産地内で消費していくことは、まさにフードマイレージの削減に直結しているのです。

環境問題の解決につながる

規格外野菜を活用する手だてがあれば、野菜の廃棄量が減り廃棄にかかるエネルギーが不要になります。

この結果、フードロスの問題を解決できたり、地球温暖化や廃棄の際に懸念されていた土壌汚染・水質汚濁などの環境問題は解決したりすることが期待できるでしょう。

日本の食料自給率の向上につながる

日本の食料自給率は、カロリーベースで約37%、生産額ベースで見ると約66%と世界的に見ても低レベルです。

生産額ベースの食料自給率に比べて、カロリーベースの食料自給率が低くなっている理由は、

「日本人の食が欧米化している」
「パンやめん類などに使われている小麦や、主菜に使われる肉を海外からの輸入に頼っている」
などが挙げられます。

カロリーベースの食料自給率を向上させるには、欧米化してしまった食生活を見直し、米や野菜などを使った和食を推進することが不可欠です。

また、生産額ベースの食料自給率を向上させるためには、規格外野菜をきちんと流通させて国内産の野菜の使用量を増やすことが大切といえるでしょう。

つまり、規格外野菜を使った食生活の推進は、日本の食料自給率を底上げするための鍵を握っているのです。

真の農家保護につながる

農林水産省は、需給調整を行う際や自然災害が起きた際に農家の収入の補償をします。

しかし、そのような補償の額は栽培にかかったコストを回収して次の栽培につなげるのに足りる程度の額ですべての農家が満足な額とはいえません。

野菜を廃棄するには、トラクターを動かすガソリン代などのコストがかかります。

もちろん、需給調整や自然災害の際に収入補償はありますが、それ以外のときには廃棄のコストだけがかかるため、大きな損失です。

従来、規格外野菜を廃棄することは「農家の保護につながる」といわれていたため、農家はせっかく育てた野菜を捨てることにジレンマを抱えつつも甘んじて受け入れざるを得ませんでした。

しかし、規格外野菜の活用方法を見つけることができれば、規格外野菜ができるまでにかかったコストを回収したり、市場を中心とした既存の流通システムを見直したりすることも期待できるでしょう。

規格外野菜の活用は、本当の意味での「農家の保護」が実現できるのです。

「規格外野菜」を使った取り組み

2010年代以降、フードロスの問題は、さまざまなメディアでとり上げられるようになりました。

その結果、市場で出荷できなかった規格外野菜を活用する取り組みが各地で行われています。具体的に、どのような取り組みが行われているのでしょうか。ここでは、7つの例を紹介します。

直売所や道の駅などで売る

農産物直売所や道の駅では、積極的に規格外野菜を販売するようになりました。

見た目の美しさよりも、新鮮さや産直品を消費者に訴えることができるため、人気を集めています。

観光地では、おみやげなどとして産直の野菜を購入する人も少なくありません。

野菜売り場に「地場野菜コーナー」を設けて、地域で生産された規格外野菜を販売するスーパーマーケットも増えてきました。

農家は、売り上げの数%を販売店側に手数料として支払う代わりに、地域の販売店に直接野菜を卸すことができます。

地域の販売所やスーパーマーケットに卸すだけなので、農家にとっては物流コストがあまりかかりません。

そのため、遠隔地に野菜を出荷するよりもコストを抑えたり、安い価格設定で規格外野菜を販売できたりすることができます。

地域イベントなどでの販売

地域のイベントで規格外野菜を販売する農家も増えてきました。

「ファーマーズマーケット」と称して、収穫したばかりの野菜を公共施設や公園などで販売する取り組みを始めている自治体もあります。

このようなイベントでは、農家が直接野菜を売ることができるため、消費者のニーズを直接聞くことができるのがメリットです。

消費者と生産者のつながりが生まれるだけでなく、消費者に「地産地消」の考えを根付かせるきっかけにもなるでしょう。

フードバンクで貧困家庭を支援

フードバンクとは、出荷できない食品や賞味期限が近い食品を生産者や企業、家庭から寄付してもらい、困窮している世帯に無償で配布する取り組みのことです。

日本は、相対的貧困率が約15%と先進国の中でも高く、高齢者世帯やひとり親世帯では困窮する率が高くなっています。

規格外野菜を地域のフードバンクに寄付することで、困窮する世帯は食費にかけるコストを削減できたり、同時にフードロスを減らしたりすることも期待できるのです。

新型コロナウイルス感染症が流行し一人暮らしの大学生の困窮が問題となったときには、大学の構内や市役所などでフードバンクが開催されることもありました。

子ども食堂での活用

子ども食堂とは、子どもやその保護者に対して無償または低価格で食事を提供する食堂のことです。

近年、家族構成や働き方の変化から夕食を一人で食べなくてはならない子どもも増えています。

また、困窮する子育て世帯では子どもの栄養不足も深刻です。

子ども食堂の多くは、寄付や補助金などを受けながら運営されています。

そのため、子ども食堂を運営する団体に規格外野菜を届けることも食堂の運営を支援することにつながるでしょう。

学校給食を使った「食育」の推進

フードロスや環境問題、さらにSDGsへの関心を高める目的で、学校給食に規格外野菜を使う自治体も増えています。

子どもたちは、給食を通じて地域の生産者とのつながりを学べるため、子どもたちに「地産地消」の考え方を定着させることもできるでしょう。

一方、食料品の物価が上がるなか、給食費の値上げを余儀なくされている自治体も多い傾向です。

なかには、副菜の数を減らしている自治体もあります。規格外野菜を効果的に受け入れることができれば、コストを削減できるため、保護者や子どもたちへの負担を軽減が期待できるでしょう。

実際に、自治体のなかには規格外野菜を積極的に使う代わりに給食費を低く抑えたり、無償化したりしているところもあります。

ふるさと納税の返礼品

ふるさと納税の返礼品として、規格外野菜を提供している自治体も増えてきました。

本来、廃棄されてしまう野菜のため、自治体は調達のためのコストを抑えたり、市区町村の収入を増やしたりすることが可能です。

一方、ふるさと納税を行う人も産直の野菜がたくさん届くため、満足度が上がります。

なかには、「想像以上にたくさん送られてきた」という人もいるほどです。

発展途上国への食糧支援

発展途上国は、先進国と異なり食料を長期保存する技術が低い傾向です。

そのため、豊作時は食べきれなかった食品が傷んで廃棄される一方で凶作時には食べるのに困る人も少なくありません。

長期保存できる食料の備蓄ができれば、天候などに左右されず食事をとることができるでしょう。

なかには、規格外野菜を使って長期保存ができる缶詰などを発展途上国に届けている団体もあります。

海外における規格外野菜の活用事例

規格外野菜を積極的に活用する取り組みは、日本以外の先進国でも始まっています。

例えば、アメリカでオーガニック食品などの宅配サービスを行っている会社では、規格外野菜を農家から買い取り、消費者に安く販売しています。

また、フランスの大手スーパーマーケットでは、店内に規格外野菜を売るコーナーを設けて、規格外野菜が捨てられている問題に一石を投じました。

このスーパーマーケットの取り組みは、世論を動かし、やがてEUの法律改正にもつながりました。

持続可能な社会を作るために

「世界終末時計」という言葉をご存じでしょうか。

これは、アメリカで発行されている科学者向けの雑誌『原子力科学者会報』の新年号の表紙に使われている絵で、地球に人類が住めなくなるまでの時間が少なくなっていることを比喩的に表現したものです。

2020~2022年までの世界終末時計の残り時間は「100秒(1分40秒)」と、1947年に雑誌の表紙に時計が登場して以来最も悪い数字となりました。

背景には、世界情勢の悪化や新型コロナウイルス感染症の流行、さらに気候変動などがあります。

持続可能な社会を作るには、これらの問題の解決が必要不可欠です。

近年は、「SDGs」という言葉を耳にする機会が増えました。

「SDGs」とは、2015年の国連総会で採択された持続可能な社会を作るために2030年までに世界規模で達成すべき開発目標のことです。

17の目標と169の達成基準があるなど、内容は多岐にわたります。

そのなかで、押さえておきたいのが「作る責任、使う責任」という12番目の目標です。

これは、「持続可能な社会を作るために、これまでの大量消費や大量生産を見直そう」という内容が掲げられています。

農作物や農作物を栽培するために必要な水や土壌は、当たり前に存在し続けるものではなく有限です。

SDGsでは、2030年までに世界のフードロスを半分に抑えることを目標にしています。

農家をはじめとする生産者は、環境負荷を考えて使う分だけを生産すること、消費者は使う分だけを効率よく消費し、モノの廃棄量を減らすことが求められているのです。

野菜の出荷基準は、そもそも大量消費がよしとされた時代に作られた基準です。

これからの時代は、効率や経済の活性化だけを考えるのではなく、地球が長く存続し人類が平和に過ごせるように生産や消費のあり方を考えなければいけません。

規格外野菜を活用していくことは、持続可能な社会を実現するうえでも非常に大切なことが理解できたのではないでしょうか。

規格外野菜の活用が地球を救う鍵になる

野菜の出荷基準は、高度経済成長期に作られたもので現代の消費者のニーズに合っているとはいえません。

日本の食料自給率の低さや、フードロスによって生じる環境問題を改善するためには、規格外野菜を積極的に活用していく仕組み作りが必要です。

日本国内でも、すでに規格外野菜を活用する取り組みは行われていますが、今後はさらに取り組みが広がっていくことが期待されています。